パッチワーク - 2/2

 何度も往復して切り分けた死体を運ぶ。
 元から大きかった図体が更に大きくなっていたのだから、担いで運ぶ事は不可能だと考えての決断だったが……やはり心苦しい。
 少し腰は痛むが、こうして全て家に運び込んだ。あともう少しだとヘンリックは自分に言い聞かせ、針と糸を取り出す。
 何本も糸を撚り、針に通し、切り離した手を、足を、胴体に繋げて行く。
 荒い裂傷を縫い合わせ、銃創から水銀弾を抉り出しては、また縫い合わせる。毛の中に紛れる傷は塞ぎ、毛にこびり付いた血は冷たい水で洗い流す。
何度も縫い合わせては糸を切り、擦りながら赤色を流す。
同じ行程を繰り返し、少しずつ、だが確かに、ガスコインは綺麗になっていく。
ダラリと四肢を投げ出した彼が己の手によって綺麗に整えられているという事に、ヘンリックは興奮していた。時が経つのも忘れ、彼は死体を弄り続ける。

月が傾き始めた頃、ヘンリックは作業の手を止めた。弄り続けていた死体を眺めて、安堵の息を吐く。
傷口という傷口は縫い合わされ、焼け焦げた毛は綺麗な部分を残して切り取って、肌が焼け爛れた部分には薬を塗り包帯を巻く。
焼かれた後も綺麗にするとヘンリックは化粧道具を引っ張り出し、獣の顔にブラシを乗せる。
死者を弔う前に姿を整え化粧を施すのは、いずれ腐り土へ還る死者の尊厳を保つ大事な儀式だが、ヤーナム以前の事をヘンリックが覚えている筈も無く。ただただ突き動かされるように筆先を操った。
その大きな口に、人であった頃と同じ様に朱色を乗せる。
終わる頃には、ガスコインの死体は手当をされ眠っているように見えた。
それが事実であったなら胸の内に復讐心でも生まれようが、今はただ静かな憐みがヘンリックを支配している。例え必死に繋ぎ止めた四肢も、繋ぎ合わせた肉と皮も、もう二度と温かくなる事は無い。
ただ死ぬまで暴れて死んだ獣なのだ。結局は。
だからこそ、あのままヤーナム葬で骨だけに成るのは当然の道理だが、ヘンリックはそれを受け容れる事が出来なかった。
「ガスコイン……」
ブラシをそっと化粧箱の中に仕舞い、ヘンリックはガスコインを抱き締めた。
少し手を這わせれば、縫合した縫い目に触れる。相棒であった男を喪った悲しみは深く、冷たい身体に涙が出た。
湿っぽくなるのを嫌っていた生前の彼の為に笑おうとするが、上手く行かない。
己を抱き返してくれているかのようにガスコインの腕を動かして、やっとヘンリックは人並みに笑えた。
一度も自分から抱擁を交わした事は無かったのに、という自嘲の笑みだった。


破いた紙に書かれた文字を今更になって読むような。

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