肌を切り裂き、身体の先から凍るかのような、冷たい夜風が吹き荒ぶ。
獣狩りの夜は風さえ無慈悲なのか。随分昔に相棒が寒さに震えながら嘆いていたのを、ヘンリックは思い出した。
……改めて、ヘンリックは目の前に転がる獣の死体を眺める。
その体躯は大きく、されど巨大ではなく。破れた衣服や革靴から、獣化して間も無く狩られたのだと推測出来る。
白銀の毛は赤く染まり、燃えて焦げ落ちた痕さえある。
腹側と背中側、合わせて弾痕が十数個。
この獣を狩った狩人は、かなり……長く戦っていたのだろうとヘンリックは想いを馳せる。
狩人と獣、血に塗れ引き金を引き、仕掛け武器を振るう。傷の荒さを見るに、武器は鋸刃の物だったのだろう。
腕は未熟のようだが、適切な武器を選ぶ知識はあるらしい。
きっと、鍛えれば良い狩人になるだろう。
だが、相棒を殺した敵に教えを説くほどヘンリックは善人では無い。
そして、常ならば復讐の為に燃えるであろう心は。
夜風で凍てついてしまったのか、怒りに動かされはしなかった。
狂気に堕ちてなお戦い続けた身体は、何処を見ても捨てられる襤褸切れのように傷付いていた。
傷だらけの、一時だけ背を預けた相棒の変わり果てた姿は、怒りとは違う、悲しみに少し似た物をヘンリックの胸に呼び覚ます。
せめて見掛けだけでも。傷付いた襤褸切れのまま、磔にされ焼かれてしまうよりは。
綺麗にしてやりたい、と。今まで彼に抱いたことのない感情が、ヘンリックを支配した。
「……許せよ、ガスコイン」
右手に持つ鋸鉈を真っ直ぐに振り落とし、肉と骨を断つ。
なるべく丁寧に。重量の配分を間違わないように。
作業は夜の半ばまで掛かった。
