魔女達の小屋まであと半分という所で、赤ずきんは黒い毛並みの狼と出会いました。
背の大きさは赤ずきんと同じほどでしたが、その毛は長く、大きな耳と立派な尻尾を持っています。
「ヘイ、ミスター・ウルフ。ワタシは先を急いでいるんだ、退いてくれ」
道を塞ぐように立つ狼に赤ずきんは言いました。しかし、狼はそこから一歩も動きません。
「そうは行かねぇな。俺はお前さんに伝言を預かって来たんだ」
狼はさらりと嘘を吐きました。
彼はコンゴーと言い、とにかくおいしい肉が好きな狼です。
魔女もおいしいらしいと聞いた彼は、住んでいるこの森に魔女が住んでいる事を思い出し、邪魔されてはいけないと小屋へ向かう赤ずきんを足止めしようと現れたのです。
「メッセージ……一体誰から? 内容は?」
「魔女からだ。“綺麗な花が見たい”だとよ」
だから、魔女とはそもそも会った事もありませんし、彼女達も綺麗な花が見たいとは言っていません。
……赤ずきんが持って行けば、喜ぶのは間違いありませんが。
「ふむ、グランマ達がそう言っていたのか?」
「ああ」
狼は堂々と頷くと、赤ずきんを真っ直ぐに見つめました。
「……オーケー、どこかで花を摘んでくるとしよう。しかし、この辺に花が咲く場所はあっただろうか?」
普段と同じお土産では面白くはないだろうと思った赤ずきんは、狼の言うことを信じてしまいました。
「あっちの方にデケェ花畑があったぜ」
「本当かい!? 何が咲いていたか教えてくれないか?」
両肩を掴み揺さぶってくる赤ずきんに、狼はしめしめと思いました。
これで今日は腹いっぱい肉が食えるに違いない、と。
「俺は花には詳しくねぇんだが……少なくともシロツメクサはあったぜ」
「最高じゃないか! 花束にするのも良いが、冠にするのも捨てがたい……」
赤ずきんはすっかり花の事に夢中になりました。
魔女達の喜ぶ顔を思い描き、どれが一番喜んでくれるかを考えていたのです。
「そうかい。じゃあな、摘むのは頑張れよ……ッ痛え!」
狼が立ち去ろうとすると、赤ずきんはその右腕をぎゅっと掴みました。
「何しやがる!」
「グランマ達に会ったなら知っているだろう? 人数分……冠を四つ作らないといけないんだ、キミも手伝ってくれ」
えっ? 四人?
狼は大層驚き、危うくひっくり返る所でした。
魔女が居て、更にその息子代わりの赤ずきんという赤い頭巾を被った青年が居る以外は、狼は何も知らなかったのです。
「いや、俺は……」
「頼むよミスター・ウルフ。パンが温かい内にデリバリーしたいんだ」
困った風に頼んでくる赤ずきんに、今度は狼が悩む番でした。
彼は美味しいものに目がない事を除けば、彼は至って優しい狼でもあったのです。
困った奴は放って置けない。しかし、肉は食べたい。
「……仕方ねぇな、手伝ってやるよ」
全部食っちまえば同じ事だ。幸い、あの花畑は知ってる奴が少ない……
狼は足止めを諦め、この場で赤ずきんを食べてしまう事にしてしまいました。
