恋の悩模様+ダイレクトアタック - 2/2

ダイレクトアタック

 青い学帽の乗ったボサボサの長い黒髪と、素肌に学帽と同じ色合いの長ランを着ているのが特徴的な青年が自分の前を歩いて行く。
 その周りには、彼を慕う丸坊主の学ランを着た男達が二人。
 ソコは私が歩いていた場所なのに。彼らの背後から様子を見ていた青年は、不満のあまり真顔になる。
 彼の懐が広く、誰も彼もに優しいのは別に構わない。今に始まった事でもないし、その懐の広さがあってこそ今の関係があるのだと解っている。
 だからと言って、彼が自分の横以外で満足そうに笑うのを見せ付けられて黙っていられるほど、青年は寛容ではなかった。
「私で十分じゃないか!」
 青年は叫ぶと、目の前を歩く想い人に思いっきりぶつかる。
「番長!?」
「番長ー!」
 その勢いのまま右腕で想い人の背中を押し、振り向いて彼の舎弟達に告げた。
「少し借りてくよ!」
 ……返す気はさらさらないけれど。

「一体どうした、慶志郎」
「どうしたもこうしたも無いよ」
 舎弟達を引き離し、大分走った後。二人は公園の木陰にあるベンチに腰を下ろしていた。
「……私の誘いを受けておいて、私以外で満足しないでくれたまえ」
 慶志郎は隣の青年から顔を逸らした。私という恋人が居るのに、隣に居なくてもあんな顔をされては……悔しいじゃないか。
 そんな悶々とした思考は、肩に優しく置かれた手によって引き裂かれた。青年の大きな手が、慶志郎の身体を引き寄せる。
 そして長い腕でしっかりと抱き締めると、そのまま動かなくなってしまった。
「え?」
 ぎゅ、と腕に力が入り、それから胸元に彼の額が擦り付けられる。学帽は胸筋に弾かれ殆ど脱げかかっていた。
 これは、もしかして。甘えられている?
 前触れもなく突然やって来た急激な甘さに、慶志郎の思考は空の彼方へと飛んで行く。
「忙しいお前さんにこうして……甘えてばかりいるのも駄目だろ」
 何だって?
 甘えてばかりではいけない、なんて。いや……それよりも。
 満足するなと言った後にこんな事をされては、まるで「こんな風に甘えなければ満足出来ない」と言っているようなものじゃないか。
 中途半端にズレた学帽を取り、頭を横に向けた青年の顔はふにゃりと蕩けかけていて……彼を慕う人々の前では絶対に見せないような、満足そうな表情だった。

 


 

拍手はこちら(Wavebox)