新作の合成薬物だと、顔見知りのディーラーから薬を貰ったのは数時間前の事だ。
何でも、新しい『アーティスト』が作った全く新しいレシピから精製されていると言う。
グレーのタブレットをシートから押し出し、手のひらの上に乗せて眺める。
……サルミアッキのように真っ黒では無いが、この手の薬にしては購買意欲という単語から真逆にある見た目をしていた。
口に入れて噛み砕くと、舌の上に苦味が広がる。
効き始めたのは大体15分後だった。視界の端から極彩色が滲み出て、頭の中に隙間が出来たような感覚がクる。
頭が冴え渡るのとは違う、脳味噌だけが少しずつ飛んでいく感覚。
視界の端に黒い人影を捉えたのは、そんな感覚を堪能している最中だった。
見たことの無い、2m超えの大男。目元を塞ぎ、手元には聖書を持っている。神父のような服を着ているが、目元が塞がれていてもなお堅気には見えない。
ぼんやりとする。頭が頭蓋から抜け出して、空飛ぶ要塞のように浮いてしまっているから仕方のないような気もしてくる。
「ヘンリック」
彼は優しく、私の名前を口にした。やはり、聞いた覚えの無い声だ。
黒い男は寝そべる私に近寄って屈むと、頭を撫でてくる。どうしてか、その感触には覚えがあった。
「疲れたのか? 大丈夫だ」
それから何事か呟いていたようだが、私には聞き取れないまま目を閉じた。
浮いた脳味噌も撫でられているような心地良さに負けてしまったのだ。
私はベッドの上で目を醒ました。薬が抜けきったばかりなのか、身体が怠い。
「なあ、ヘンリック。また俺に会いに来てくれよ」
薬の幻覚がまだ見える。自分の身体は何も身に纏っていない。
ああ怠い。
「ガスコイン」
知らない筈の、彼の名前を呼ぶ。
彼が、薬のシートを処分用のゴミ袋に入れてくれる。ああ、言わなくても分かってくれるのは素晴らしい。
「会いに行くのは面倒だ。ここに居てくれ」
……ところで、私に、こんな大きな親友が居ただろうか。
「仕方ねぇな」
違和感を拭えないまま、私は彼に支えられて身体を起こした。
ヤーナムって薬物中毒者多そうですよね。普通の薬でも、ちゃんとした薬屋が居なくて乱用しまくってるイメージがあります。
