Cothurnus - 1/3

[使い込まれた革の手帳は罵詈雑言や威圧的なフレーズの豊富なレパートリーから始まり、好きな物語の台詞や、見かけたあらゆる人間の仕草や視線の動き方と、その動作にどんな印象を受け、周囲にどういった影響をもたらしたのかが事細かに書かれている。しかし、最後の2ページだけは全く毛色の違う記述が見受けられた]

 私と同じ自由を彼に味わってほしかった。
 自由を得るだけなら7007人の魂を、彼の過去の大半を儀式に捧げる必要はない。私が同じ陽の光を浴びて、同じ物を食べてみたいばかりに!
 それに。神々に見放され兄弟姉妹達にすら狙われてしまうのなら、もう何にも怯えなくていいだけの力を手にする必要がある。その先で私が側にいれなくなっても、自由に羽ばたく存在であってほしい。

 彼が彫刻を施している間、せめてもの弔いにと絶叫に紛れるように葬列曲を口ずさんだ。
 誰の耳にも届かなかったが、一心同体となった彼の興奮が一層増したのを覚えている。

 見たかコアロンよ。お前のいっとう深い悲しみは、とても美しい。

 

 自由のために殺して、殺して、殺して。
 これだけ殺したのは初めてだった。破裂した跡の残るスポーン達の牢を見ても、普段の殺しの後の感情的な静寂は訪れない。彼の飢えが収まった事が嬉しかったのか、それとも大量の血にとうとう興奮するようになったのかは定かでない。
 怪物狩りも皆殺しにした。既に一人殺していたのだから今更だった。彼らも、芸人の芝居を観ることぐらいあったかも知れない。

 父がまだ幾分か正気だった頃、芸人は己の人生こそが最大の劇場だと私に説いた。
 なら、誰か一人のために貸切にしても構わないはずだ。この命が尽きるまで、少なくともヴァンパイア・アセンダントとなった彼が私に飽きてしまうまで、大切にしてやりたい。