とどみさ習作

「み、操ッ!」
 私立轟高等学校、その校庭に生える一際大きな桜の木の下で、長ランにドカンを穿いた大男が立ち去ろうとする女生徒を呼び止める。
 操と呼ばれた女生徒が振り返ると男は余程焦っているのか、その両肩を横から手で挟み込んだ。
「と、とどろき……くん?」
 いつも冷静で、急に勝負を挑まれても顔色一つ変えずに受けて立つ彼が、自分の告白でかなり様子がおかしくなってしまったことに操は驚いていたし、ほんの少しだけ嬉しかった。
「おっ、お、おおお、俺はッ」
 視線こそ逸らされてはいないが、その頬は真っ赤に染まり、ぱくぱくと口を動かして一向に言葉が出てこないのは、操の知る彼とは違った。
「うん……」
 けれど、自分が想いを伝えた時の、心臓が破裂しそうな熱が彼にもあるのだと思うと。
 嬉しくてたまらない。
 たった一言、想いを伝えようとするだけでドキドキしてしまうのは……自分だけじゃないんだ。
「……俺は、いや、俺も」
 両肩から手を離し、彼は被っている学帽の鍔で自分の目元を隠してしまう。
 が、頬まで真っ赤なのは隠し切れていなかった。
「轟君も……?」
 早く続きが聞きたくて、つい言葉を急かす。
 彼はさっきの焦ったい告白を、嫌な顔一つせず最後まで聞き届けてくれたのに。
 煩い心臓に鎮まってほしくて胸に手を当てても、更に鼓動が早まるだけで意味は無かった。
「俺もその、なんだ。操、お前さんの事が……!」

 

 一方その頃。
 桜の木から離れた校舎の影で、双眼鏡を握り締めて二人の恋模様を覗く男が、二人。
「頑張ってくださいッス、番長!」
 二人には届かないように、しかし応援する意図は感じられるハツラツさで丸坊主の学生服を着た男が言う。
 彼が着ているのは轟高校指定の変形学生服で、その身なりが表す通り轟高校の生徒であり、告白されている方、轟高校の総番長である轟金剛を慕う舎弟の一人でもあった。
「漢見せろよ、サムライボーイ……!」
 その隣で思わず片手を握り込み呟いたのは、真っ赤な短ランとボンタンが目立つ、長い金髪と整った顔立ちが目を魅く男。
 彼は鏡慶志郎と言い、アメリカの大学で経済学を学ぶ大学生である。本来なら轟高校に踏み入ることさえ無い筈だが、真面目に説明すれば本が出来る程の複雑な過程を経て、今は三年生として編入されていた。
 告白している方、操の恋愛相談を普段から聞いていて、轟や舎弟の事はよく知っているし、何なら轟のライバル達とさえ交流を持つ。
 そんな彼が本人から告白の日時を聞かされ、影でこっそり見守っていてくれ、などと言われれば。
「貸しな」
 いつの間にか隣に立っていた、丈の短いセーラー服を着た女子高生が、鏡の双眼鏡を引ったくって桜の木の下でもじもじとする二人を睨む。
「……おやおや。電話口では乗り気で無さそうだったのに、キミが一番乗りじゃないか」
「アタイはアイツの漢気と、操の本気を見届けに来ただけさ」
 そう言って食い入るように二人を双眼鏡越しに眺めるのは、轟のライバルの一人である“疾風の”サキだ。
 鏡が操から告白計画を伝えられて、真っ先に連絡を取ったのが彼女だった。二人で恋愛相談に乗ったこともある彼女が、この話を聞いていない筈が無いと。
 覗く訳には行かないと渋っていたのだが、二人の行く末はやはり気になるようだ。
「番長も、操さんも、さっきから動かないッスね……」
「まあ、サムライボーイからしたら今までは幼馴染だった訳だ。固まってしまうのも無理はないよ」
 それでも、リードする気概を見せるのが漢だと思うがね。鏡が付け足して言うと、サキが頷く。
「アイツ、さっきからずっと真っ赤じゃないか」
「あ! 何か喋ってるッス!」

 こうして、私立轟高等学校を揺らがす大事件「世界中の誰よりも幸せにするから娘さんを俺にください事件」は始まるのだが、その影である三人の尽力があった事は、あまり知られていない。

 


2024/09/02
かわいい二人を書きたかった!

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