あれから何度呼び掛けてもハンサムが返事をする事は無く、轟と鏡はベッドの上で不毛な争いを続けていた。
「だーかーらッ! 大人しく私に任せろと言っているだろう!」
「いーやーだッ! そりゃお前さんに抱かれろって事だろう!?」
ベッドの中央でお互い手を組み合い、全力で相手を押し倒そうと奮闘する二人。言っている事はともかく、やっている事は学生がやるような取っ組み合いの喧嘩だった。
「現在地がどこかも判らない状況で、消耗している場合ではないのだよ、サムライボーイ……!」
「んなこたァ分かってる!」
「ならさっさと……倒れてくれたまえ……!」
鏡は力を振り絞り、轟を押し倒そうと押し続ける。
「絶ッ対、嫌だ……!」
轟もまた力を振り絞り、押し倒されまいと抵抗していた。
時々ぐらつく以外は二人の腕力は拮抗しており、勝つためには舌戦で有利を作るしかない。
「……どうして……そこまで拒むんだ? 要求を飲むことには、キミも賛成しただろう!?」
上か下かを決める段になってから結構時間も経ち、腕に力を込め続けるのもそろそろ限界だ。この後の結果はどうであれ、何故こんな事をしていたのかと、鏡は最後に問い掛ける事にした。
「それは……」
轟の腕から、張り詰めていた力が抜ける。
その隙を見逃さず、鏡は止めを刺そうと一気に力を入れた。
「……惚れてるって、バレるからだ」
鏡は轟を押し倒した。けれどもそれは力比べの結果ではなく、轟に引っ張られた故の結果だった。
「なに……何だって?」
まじまじと鏡は轟の顔を覗き込む。
いつも被っている学帽は脱げ転げてしまっていて、逸らされた視線と赤く染まった頬が目に入る。
「嫌だろ、こんな……嫌いな男とヤるなんて」
目元がみるみるうちに赤く染まり、茶色の虹彩が滲む。
……何だか妙な気分だ。確かに今、彼の顔を見れば好かれている事ぐらい分かる。それが嫌かと言うとそうではない気が、した。
「嫌いでは……いや、それよりも嫌では、ないかもしれない……」
自覚した瞬間から、1秒ずつ疑念は確信に変わる。
数秒前にはかもしれない、などと曖昧な答えを返したが、今は……
「待ってくれ、少し時間が」
欲しい、とは言えなかった。轟の掛け声が聞こえたかと思うと、いつの間にか鏡の方がマウントを取られている。
「待った、はナシだ。早い所ヤる事ヤって、お前さんに恥かいて貰わなきゃあな」
でないといつまで経っても鍵が開かねぇ。先程のしおらしい態度は何処へやら、ニィ、と深く笑う。顔色はまだ赤いままだった。
「フ、フフフ……顔を真っ赤にして、どうせ照れているのだろう。そんな調子で私をどうやって辱めるつもりなんだ、チェリーボーイ?」
熟したチェリーよりも赤い、彼の頬に白い手を添える。
「お前さんこそ、顔が赤いぞ。鏡」
楽しそうに、或いは挑戦的に笑う相手の頬に、轟も手を伸ばす。
お互い良い雰囲気である所を自覚した所で、扉のロックが外れる音がした。
