「……ここは?」
轟が目覚めると、白い天井と壁に囲まれた部屋で白いベッドに寝かされていた。
「起きたか、サムライボーイ」
そのベッドの端に赤いスーツの影が見える。上体を起こすまでもなく、見慣れた長い金髪と均整な顔立ちが覗き込んできた。
「係長?」
「ああ、そうだ。キミの上司の鏡だ。意識はハッキリしているようだね」
そう言って頷いた鏡の顔が遠ざかる。
追い掛けるようにして轟が上体を起こすと、彼はベッドの足元側に座り直している所だった。
「一体何が……」
「状況証拠から、何者かが私とキミを閉じ込めたという所までは分かった。だが、理由や犯人は分からない」
私をこんなむさ苦しい男と閉じ込める理由なんて聞きたくもないが、と苦々しい表情であからさまに言う普段通りの鏡に、轟は少し安心した。
「係長、怪我は」
「ノープロブレム。ポケットからスマートフォンや“奥の手”が抜き取られていたのは痛いが。キミは?」
「俺は……怪我は無い。財布は無事だ、携帯は…………」
轟は自分の身体を探る。怪我は見当たらず財布も直ぐに見付かったが、スーツの内ポケットに入れていたはずの携帯だけは見つからない。
「となると、連絡手段は取り上げられたか」
「フン、誰だか知らねぇが狡い真似しやがる」
「おまけに、あの扉には電子ロックだ。どうしても私達をここから出したくないらしい」
そう言って鏡が指差す先には銀色のドアノブが付いた扉があった。鍵穴は見当たらない。
「扉ごと吹っ飛ばせば……」
「残念ながらそれはノーだ、サムライボーイ」
誰かが見ているからね。と鏡は声を落として囁く。
その声で弾かれたように轟が天井を見た時、どこかで聞いた事がある声が耳に入った。
「隠しカメラに気付くとは流石だな、鏡慶志朗」
今度は鏡が立ち上がり、部屋の角のある一点を睨み付ける。
「仮にも大企業の一員だと名乗るならコンプライアンスぐらい遵守したまえ、ミスター・ハンサム」
「さぁ……何のことやら。私はただ“たまたま”君達の居る部屋を制御出来る場所に居るだけだ」
「何が“たまたま”だ、俺達をこんな所に押し込めやがって」
ずい、と鏡の隣に踏み出て轟も同じ一点を睨む。
確かにそこだけ、目を凝らすと壁の白色とは別の白色が塗ってある事が分かった。
「押し込めてなどいないさ。君達がどうしても出たいと言うのなら、ここからロックを解除してもいい」
張本人からの意外な提案に、轟と鏡は一瞬だけ視線を交わす。
話に乗るべきか否か。
ロックが開かなければどの道出れない、と消極的ではあるが、二人は一先ず話に乗ることにした。
「なら、さっさと開けたまえ」
「すぐに開けるさ……フェスティバルでの借りを返してからな、鏡慶志朗!」
ハンサムの怒りの篭った声に、二人は首を傾げる。
確かに、轟と鏡は某国のフェスティバルに出張しに行き、ハンサムと、同じくA.R.A.N.社のエージェントであるビューティーの二人と対決した事がある。
轟は牛追い祭で牛を嗾けたし、鏡に至っては真っ白なスーツ姿に赤いトマトをこれでもかと投げ付けた覚えがあった。
「ただの逆恨みじゃねぇか」
「私怨に部下を巻き込むのはやめてくれないか」
しかし、誘拐した上で借りを返すとまで言われてしまうのは、逆恨みも良い所なのではないだろうかと、二人の考えは概ね一致する。
「貴様に更なる屈辱を味わわせる為の小道具として、必要であるだけだ」
「屈辱……?」
確かに、鏡は部下である轟をあまり好ましくは思っていない。
それでも、部下は部下だ。そして同じ場所に閉じ込められている以上は、上司として彼を無事に家に返す責任がある。
それまで隣に居るぐらいは、別にどうとも思わなかった。
「そこのベッドで部下とセックスしたら、ロックを解除してやろう」
「……は?」
「何だって?」
二人はもう一度顔を見合わせた。
